人気アニメ「クレヨンしんちゃん」(テレビ朝日系)の劇場版アニメ「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」(高橋渉監督)が「シリーズ屈指の傑作」「青春映画」などと話題になっている。同作は、シリーズ初の本格(風)ミステリーに挑戦。その完成度の高さが話題になっているが、魅力はそれだけではない。管理社会、格差社会なども描き、子供向けアニメでありながら、大人も考えさせられるところも多く、さまざまな魅力にあふれている。高橋監督、脚本のうえのきみこさんに、傑作が生まれた裏側を聞いた。
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「謎メキ!花の天カス学園」は、「クレヨンしんちゃん」の劇場版29作目で、しんのすけたちカスカベ防衛隊が小中一貫校の私立天下統一カスカベ学園(天カス学園)に体験入学することになり、謎の怪事件に巻き込まれる。7月30日に公開され、興行収入が12億円を突破するなどヒットしている。
同作は“本格(風)学園ミステリー”と銘打っていることもあり、ミステリーとしてしっかり楽しめるのが一つの魅力だ。ミステリーにしようと提案したのは高橋監督だった。
「中学生の頃に赤川次郎さんの『三毛猫ホームズ』などが好きだったこともありで、ライトなミステリーを作りたかったんです。でも、ミステリーにすごく詳しいわけでもなく、いざ作り始めてみると途方にくれました。動機、トリック、人物の出し入れ、手がかりをどこまで観客に見せるのかなどなど。『クレヨンしんちゃん』はアクション、ギャグ……とやらないといけないことが多く、推理を軸にするのは難しいんです。うえのさんとやった『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』でもミステリー要素を入れようとしたけど、複雑になるので諦めたんです。なので今回は思い切ってミステリー中心でやってみました。トリックに関しては、勢いでいったところもあります。画の迫力のおかげで、冷静になる隙(すき)を与えない(笑い)」
うえのさんは「ミステリーは全然書いたことがなかった」こともあり、不安もあったという。
「最後のトリックをミステリーと言っていいのかな。難しかったです。あのダイイングメッセージで怒られないか心配でした(笑い)。子供にトリックを説明しても分からないかもしれないので、子供も大人も犯人捜しを楽しめるように、犯人をミスリードするような作りにしました」
誰もが疑わしく、犯人捜しをする楽しみがあり、伏線を回収するために何度も見たくなる。緻密な計算があったからこそ、子供も大人も楽しめるミステリーに仕上がったのだろう。
謎解きだけが同作の魅力ではない。自由なしんのすけと優等生であろうとする風間トオル(風間くん)の関係性にフォーカスし、キャラクターを深掘りした。互いの気持ちをぶつけ合うなど“青春”を感じるシーンもある。高橋監督は、しんのすけと風間くんを「お互いが引き立つ関係性」と感じているという。
「『映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃』ではネネちゃん、『カンフーボーイズ』ではマサオくんにスポットライトを当てたし、次は風間くんかな?と。ちゃらんぽらんなしんのすけ、先を見据えて大人びたことも言う風間くんは、正反対のキャラクター。テレビでも映画でもこの二人のやりとりは作っていて楽しいので、もっと掘り下げてみたくなったんです。せっかくやるのなら、二人の本性をむき出しにしたかった。二人がけんかするシーンは、いつもならしんのすけが軽く受け流すけど、母のことを持ち出され、引くに引けなくなる。そこはシリーズでは描けないところでした」
風間くんの目線でしんのすけがより魅力的に見え、またその逆もある。うえのさんはテレビシリーズの“ちょっと先”を描こうとしたという。
「風間くんは、カスカベ防衛隊の中で一人だけ英語塾に通っていたりして、未来を見ています。テレビシリーズではしんのすけたちの何気ない日常を描いていますが、その日常とつながっている“ちょっと先”を描こうとしました。ただ、しんのすけは動かすのが難しいんですね。悩みも葛藤もない。今回は友達のために動きますが、成長するわけではないですし」
「クレヨンしんちゃん」では、しんのすけはずっと幼稚園児で、大人になることはない。テレビシリーズでは日常が描かれ、基本的に成長はせず、“おバカ”なままだ。高橋監督が“ちょっと先”を描いたことについて「これ以上は進めないところまでいったところもあります」と語るように、ギリギリを攻めた。高橋監督とうえのさんはこれまで、テレビシリーズや2018年公開の「映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~」なども手がけてきた。だからこそできたことなのだろう。
「謎メキ!花の天カス学園」の舞台となる小中一貫校の天カス学園は、能力至上主義を掲げ、AIで管理されており、管理社会、格差社会をコミカルに描いている。大人もハッとさせられるような描写も多い。ただ、高橋監督は「大人を特別意識したわけではない」という。
「小学校でもタブレットが普及して、AIが生活に入り込んでいますし、、映画で描かれた授業の描写も非現実的な風景ではなくなってきています。AIが倫理判定をするようになったら……。人間不信が広がっているのかな?とも思います。他人を評価したくない、関わらないようしたいということなのかもしれません。でも、お互いがぶつかり合って分かり合うことも大事ですよね。そこを描きたかった。大人にもそこが響いているのかもしれません。計算して作ったわけではないのですが」
「クレヨンしんちゃん」は長寿アニメということもあり、制約も多そうではあるが、高橋監督は「テクニカルな面で守らないといけないところはありますが、ストーリーは特にないんですね」と明かす。
「しんのすけは基本的に大人の女性にしか興味がない、暴力はそんなに振るわないとか、そういうのはありますけどね。彼はこういうことを言わない……みたいなものもそんなになくて、前後の積み重ねに説得力があればなんでも言わせることができる。今回、やってみて感じたことなのですが。『クレヨンしんちゃん』だからできることもあって、何でもぶち込める。バンカラな番長がいたり、ギャルがいたり、時代感がごちゃまぜでカオスでも、違和感なく同居できるのが強み。軽い思いつきをそのまま映画に組み込める自由なところが作っていて楽しいところです」
うえのさんも「やっちゃいけないことを考えない。キャラクター性を守っていれば、どこで何をしようが自由。子供が映画館で見て、笑ってくれるといいな!ということを大切にしています」と話すように、劇場版「クレヨンしんちゃん」は自由な発想で制作されている。だからこそ、「謎メキ!花の天カス学園」のような傑作が生まれたのかもしれない。
※高橋渉監督の「高」は「はしごだか」。
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