女優の戸田恵梨香さん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「スカーレット」で、ヒロイン・喜美子(戸田さん)の妹・直子を演じている桜庭ななみさん。劇中では、しっかりものの喜美子とは対照的に、気が強くわがままで自由奔放、父・常治(北村一輝さん)とは常に衝突し、感情をむき出しにする女の子として、物語にアクセントを付けている。飛び道具的な立ち位置でありつつも、繊細な演技も見せ、注目の存在となっている桜庭さんの魅力とは……。
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中学卒業後、家のために高校に進学せず、大阪の「荒木荘」で女中を始めた喜美子。ようやくやりたいことが見つかり、コツコツと内職でためたお金で美術学校に進学しようとした矢先、父の酒浸りの生活でおかしくなってしまった家族のために、信楽の実家へ戻る。待っていたのが、荒れ狂った直子だ。
とにかく常治とはそりが合わず、顔を合わせればいがみ合い。甘えられる姉に感情を爆発させる姿は、作品のトーンに刺激を与える存在として良いアクセントになっている。かと言って、ただ爆弾キャラを演じているだけではなく、喜美子が「絵付師」への思いを家庭のために我慢して号泣した際には、目線だけで姉への申し訳なさや、自分の無力さ、さらに憤りなど、さまざまな感情を想起させる繊細な芝居を見せた。
桜庭さんと言えば、「三菱地所」のCMでの活発な女の子という印象が残っている人も多いだろうが、女優としても、テレビ朝日のドラマ「ゴーストタウンの花」(2009年)や、「ふたつのスピカ」(NHK、2009年)で主演するなど、早くから活躍。そんな桜庭さんが大きな話題となったのが、2010年に公開された映画「最後の忠臣蔵」だ。桜庭さんは大石内蔵助の隠し子・可音を演じ、役所広司さんや佐藤浩市さんという日本映画界を代表する俳優たちと現場を共にした。
スクリーンで見せた可憐(かれん)さと儚(はかな)さがあいまったたたずまいは、「北の国から」などの演出を務めた杉田成道監督から「まばゆいばかりの宝石を持った大きな女優になる」と絶賛された。この作品で第35回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、第53回ブルーリボン賞新人賞、第20回日本映画批評家大賞新人女優賞など、数々の賞を受けた。
しかし、後のインタビューで桜庭さんは、この時の評価が自身にのしかかり「大きな壁になってしまった」と語り、芝居への自信を失ってしまっていた期間があったと吐露していた。それを打破したのが、中国語や韓国語という語学だった。学ぶきっかけは、台湾映画「あの頃、君を追いかけた」が好きになったからということだが、地道に勉強し、通訳を入れなくても会話できるレベルまでに鍛錬。2018年に日本で公開されたジョン・ウー監督の「マンハント」に出演した際には、台湾でのプレミア上映で、通訳を介さず現地の取材に応じる姿が大きく報道された。
海外で母国語以外のコミュニケーションをとることや、ゼロから始めたことが形になったことが、失った自信を取り戻すきっかけになったと話していた桜庭さん。時を同じくして、芝居の幅も非常に広がってきたように感じられる。以前は、みずみずしいルックスと清廉さのイメージが強かったが、近年はさまざまな面を見せている。
昨年放送された大河ドラマ「西郷どん」では、鈴木亮平さん演じる西郷吉之助のしっかりものの長妹・琴を演じた。自身も鹿児島出身ということで、縁の深い役でもあるが、西郷家を守る活力ある妹を好演し、新たな一面を見せると、2018年公開の映画「焼肉ドラゴン」では、大阪の地方都市で焼肉店を営む在日韓国人一家の三女・美花を演じた。
美花は自分の気持ちに正直な故に、周囲を巻き込む女性。不倫相手の長谷川(大谷亮平さん)が務めるナイトクラブで、はじめてチャンスをもらい妖艶な格好で「伊勢佐木町ブルース」を歌い始めるも、長谷川の妻でクラブの大御所歌手・美根子(根岸季衣さん)にマイクを奪われ、取っ組み合いのけんかになるなど、体当たりの演技は、これまでの桜庭さんからは想像できないような役柄だった。
同じく2018年公開の映画「かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発」でも、桜庭さんは、またこれまでとは大きく違う役柄に挑んだ。有村架純さん演じる奥薗晶の息子が通う小学校の教師・佐々木ゆり役。不倫の末に妊娠し、しかも捨てられ未婚の母になるという女性だ。自身も辛い立場である弱さと、晶に寄り添い励ます強さが内在した立体的な女性を見事に表現していた。
満を持しての朝ドラ初出演となった桜庭さん。台本を読んだ時「お父ちゃんは、わがままでお金遣いが荒くて、お酒も飲む」とマイナスな面を持ちつつも「でもどこか愛嬌(あいきょう)がある」と感じたと話していたが、そんな部分が直子に似ていると直感的に思ったそうだ。だからこそぶつかる2人。
学校を卒業したら「東京に行く」と宣言していた直子は、果たして今後、どんなふうに物語をかき回してくれるのか……。桜庭さんの芝居と共に楽しみは尽きない。
余談だが、第35回放送回の食卓で、直子が「芋嫌いやー! 毎日芋、芋、芋、芋」と憎まれ口をたたいていたが、そのせりふを聞いて、2015年公開の「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」で桜庭さんが演じていた「芋女」サシャを思い出してしまった。(磯部正和/フリーライター)
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