小野憲史のゲーム時評:自治体主導のゲームイベント 業界の地位向上も、懸念あり

多くの来場者でにぎわう「埼玉ゲームシティ」の様子
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多くの来場者でにぎわう「埼玉ゲームシティ」の様子

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、「埼玉ゲームシティ」を取り上げながら、自治体主導のゲームイベントについて語ります。

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 埼玉県の文化・コンベンション事業を実施する埼玉県産業文化センターが主催し、地方自治体などが後援するゲームイベント「埼玉ゲームシティ」がソニックシティ(さいたま市大宮区)で2~3日に開催された。県主催のレトロゲーム展示会「あそぶ!ゲーム展」の特別出張展示やeスポーツのイベントなどがあり、親子連れを中心に2日間で約2万5800人が来場。初日の午前中は一部で入場規制があったほどで、行政主導型のゲームイベントの可能性を感じさせた。

 これまでのゲームイベントは大きく2種類があった。東京ゲームショウなどのゲームファン向けのイベントと、CEDECなどのゲーム開発者向けの催しで、いずれも業界団体やゲームメーカーが主催している。しかし近年のゲームイベントは多様化し、「埼玉ゲームシティ」のように行政が主導するイベントも出てきた。

 今回のイベントはソニックシティの30周年記念事業だが、ほかにもウィーン少年合唱団などの特別公演、文化イベントの埼玉アートフェスティバル2018、社会貢献イベントの障害者アートフェスティバルが開催された。これらの予算として30周年記念事業積み立て資産から総額6000万円が計上されている。「埼玉ゲームシティ」も先端産業イベントという位置付けで、予算2000万円が計上され、入場無料(一部イベントは有料)で開催された。ゲームという産業の地位向上に、隔世の感を禁じ得ない。

 企画を主導した埼玉県産業文化センター職員の田中康士郎さんは「『あそぶ!ゲーム展』が元々開催されているSKIPシティ(埼玉県川口市)は交通の便があまり良いとは言えず、より多くの県民に体験してほしかった。そのため『あそぶ!ゲーム展 ステージ1:デジタルゲームの夜明け』の特別展示をベースに、それ以外の企画を広げていった」と語った。実際、会場では新旧ゲームの試遊会、ゲーム音楽コンサート、プログラミングワークショップなどが開催され、多彩な内容となった。

 中でも注目を集めたのは、eスポーツイベントやユーチューバーによるゲーム実況が開催されたステージイベント。埼玉出身の声優・飯田里穂さんと「でんぱ組.inc」の藤咲彩音さんが司会を担当したこともあり、多くの人でにぎわった。プログラミングワークショップでは簡易プログラム言語のスクラッチを使用し、懐かしのゲーム「スペースインベーダー」が制作された。一組3000円の有料イベントにもかかわらず、30組の定員の数倍に及ぶ申し込みがあり、注目度の高さを感じさせたという。

 イベントは記念事業として開催された経緯もあり、次年度以降の展開は未定だが、行政主導のゲームイベントは今後増加すると予想される。eスポーツのような興行イベントは観光行政、ゲームプログラミング教室などは教育行政と結び付きやすいからだ。富山県魚津市の進める「つくるUOZUプロジェクト」のように、ゲームクリエーター育成事業に取り組む自治体も出てきた。他に草の根の地域コミュニティーによるeスポーツ大会なども各地で開催され始めている。

 こうした動きはゲーム業界側にとっても協業先の増加を意味し、ゲーム業界の地位向上の側面からも歓迎の状況ではある。ただ、ゲームの使用許諾に関する取り決めが不十分という懸念材料もある。ゲームは囲碁や将棋などと異なり企業の知的財産物で、イベント使用時には企業側の許諾が必要となる。企業側が規制を強め過ぎると、この盛り上がりに水を差す結果にもなる。そのためには業界側が透明で分かりやすい指針を示す必要があるだろう。ゲーム文化の成熟のためにも幅広い議論を期待したい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。

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