アニメ「INGRESS THE ANIMATION(イングレス)」などの櫻木優平監督が手がける劇場版アニメ「あした世界が終わるとしても」が25日公開される。櫻木監督は、岩井俊二監督の「花とアリス殺人事件」のCGディレクター、宮崎駿監督の「毛虫のボロ」などでもCGを手がけてきた若手クリエーター。「イングレス」でも3DCGならではのダイナミックな映像が話題になった。近年、国内で3DCGのテレビアニメも増えつつあるが、櫻木監督はCGの強み、表現についてどのように考えているのだろうか……。
ウナギノボリ
10年前の朝ドラ「花子とアン」 当時の吉高由里子インタビュー
「あした世界が終わるとしても」は、幼い頃に母を亡くして以来、心を閉ざしがちな高校生・狭間真と幼なじみの泉琴莉の前に突然、もう一つの日本からもう一人の僕が現れる……というストーリー。ほぼ3DCGで製作された。CGと作画(2D)にはそれぞれ強みと弱みがあると言われている。
「作画だと描いたものを直すのはすごく大変ですが、CGはアングルを少し変えたりすることが比較的やりやすい。個人がコントロールできる幅が広いんです。弱みは、舞台、キャラクターがないと作れないところです。作画は描けばなんでもできる。CGは、例えば椅子に座る時にスカートがキレイに椅子に沿うようにするのも大変なんです。ちょっと着替える、腕をまくるだけでも準備が必要です。それを考慮して演出しないといけません」
一度作った映像を比較的に簡単作り直すことができるというCGの利点を生かして実験したことがあった。アニメは通常、映像の設計図となる絵コンテが描かれるが、櫻木監督は絵コンテを描かずに「あした世界が終わるとしても」を作り上げた。
「脚本を書いた後に文字のコンテを書いて、(映像の)編集ソフトのタイムライン上に文字やせりふを並べて、絵のないムービーを作りました。CGモデルがあるので、スタッフには、カメラでどう撮っていくのかを決めてもらいました。絵を描くよりもCG作る方が速いスタッフもいます。CGはめちゃくちゃうまいけど、絵を描かない人もいます。一度、できあがった後に直したりしながら進めました。(スタッフとの)信頼関係もあったからできました」
アニメで絵コンテを描かないのは異例だというが「自分としては、すごくやりやすかったですね。このやり方を洗練させていければ」と感じたという。
CGでキャラクターの表現がリアルになり過ぎる中で違和感を覚える「不気味の谷」とも呼ばれる現象もある。「あした世界が終わるとしても」では、ヒロイン・泉琴莉をはじめとした女性キャラクターがとにかく可愛い。
「可愛くするのは熟練度というか、センスというか……。何が可愛いかを理解しているか、なんですね(笑い)。自分は可愛い女の子を担当することがこれまでも多かったのですが、おじさんは苦手。逆におじさんが得意なスタッフもいます。技術的には、作画のアニメよりも目や髪の束などのディテールを細かくしています。それと立体的なライティングをしています。アニメファンが見て抵抗がないようにしたり、変な影が出ないようにしたり、顔のライティングを細かくしています」
近年、CGで作画のアニメのような表現を実現した作品もあるが、櫻木監督は「作画のアニメをまねするフェーズではなく、CGの得意なことをやろうとした。キャラクターがピタッと止まるのではなく、常に動かしたり」とも話す。CGならではの表現を目指すのであれば、ディズニーやピクサーのCGに近づいてくるのだろうか?
「(ディズニーやピクサーに)寄ってきてはいますが、あれはお金や時間をすごくかけている。日本のアニメが培ってきた文化とのハイブリッドみたいなところでしょうか。日本のアニメの素晴らしい表現を生かしつつ、日本ならではのCGのよさを表現していきたいですね」
櫻木監督はこれまで、岩井監督や宮崎監督とも仕事をしてきた経験がある。「関わってきた監督からの影響も大きい。
「作風や演出論もそうですが、仕事のやり方ですね。岩井監督と仕事をしていた時は、CGディレクターとして現場をまとめないといけませんでした。作品よりも現場を優先することを怒られたことがあったんです。監督になると、すごくその気持ちが分かるんですね。作品がよくならないと意味がない。ただ、CGディレクターの気持ちも分かる……。宮崎監督とも仕事をする中で、しっかりやらないと作る意味がない、作品として達していないものを出すことは失礼という考え方になりました」
櫻木監督の作品は、これからもますます注目を集めそうだ。「今回、映画は初めてでしたが、今後も作り続けたいですね。コンスタントに作品を発表できるようにしたい」と意気込む。今後も日本ならではのCGアニメを生み出していくことに期待したい。
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