今年、創刊50周年のマンガ誌「ビッグコミック」(小学館)の関係者に、名作の生まれた裏側や同誌について聞く連載企画「ビッグに聞く」。第12回は、2000回を超える「赤兵衛」で知られる黒鉄ヒロシさんが登場。長寿作「赤兵衛」やマンガへの思いを聞いた。
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黒鉄さんは、マンガ家になった理由を「直感ですね」と語る。「ばくちとマンガは似ていてね。どちらも言語の外にあるんですよ。言葉が誕生し、言語がすべてを抑圧するより前の“真言”の世界、解放の世界なんです。既に我々は活字にすっぽりと飲み込まれているんです。戦後の明るさを知る我々の世代はほとんどがマンガ家志望だったんです。篠山紀信さんも井上陽水さんもそう。マンガが害毒といわれて、今のスマホより扱いがひどい(笑い)。でも、これしか面白いものはなかった」と明かす。
「赤兵衛」は1972年に連載が始まり、通算2000回を超える長寿作だ。しかし「『赤兵衛』は全然、大変じゃない。僕は、描くのがむっちゃくちゃ速い」と話す。「手塚治虫さんは原稿を落っことす名人でね。僕は3回穴を埋めた。高円寺で飲んでいたら編集者が飛んできて、『あしたの朝までに16ページ』。『えええ!』っとなったが、顔を洗ってすぐに描いた」というから驚きだ。
黒鉄さんが考えるマンガの面白さについて聞いてみると、「マンガにはこれが全部あるんです。例えば、江戸時代の地図がある。ドローンなんかがなくても、元より人は想像力で、俯瞰(ふかん)で見られるってこと。つまり、ドローンの視座は不足する人のためのもの。はっきりと見えることがそんなに面白いものか?」「夢と現(うつつ)のそのビブラートしている線を引くのがマンガ家の仕事で、ビブラートした境目の線こそ、マンガの世界だと思う」と持論を展開する。
電子書籍の隆盛などマンガの世界は変化しつつある。黒鉄さんは「AIとの戦いだな。物理学者と話をすると、美しいかどうかをすごく気にしている。この“美”はかなり遠い向こう側にあって、我々凡人にはなかなかつかめない。けれどもコンピューターには感知できず、人間にしかつかめないものです。AIと人間の差が、マンガに現れるだろうね」と予言する。科学が発展してもマンガの魅力は色あせないのだろうか……。
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