注目映画紹介:「四月の永い夢」朝倉あきが恋人の死の喪失感から解放されるヒロインに

映画「四月の永い夢」の一場面 (C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema
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映画「四月の永い夢」の一場面 (C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

 故・高畑勲監督の遺作「かぐや姫の物語」(2013年)のヒロインの声で知られる女優、朝倉あきさん主演の映画「四月の永い夢」(中川龍太郎監督)が、12日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほかで公開される。恋人の死後、時間が止まったままの27歳のヒロインが、新たな出会いや人々との交流を通じて再び前へ踏み出すまでを描いている。2017年のモスクワ国際映画祭で、国際映画批評家連盟賞とロシア映画批評連盟特別表彰をダブル受賞という快挙を成し遂げた。

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 3年前に恋人を亡くし、以来、時間が止まったままの滝本初海(朝倉さん)の元に、ある日、恋人が生前したためた手紙が恋人の実家から届く。それがきっかけで、かつての教え子(川崎ゆり子さん)との再会や、染物工場で働く青年(三浦貴大さん)からの告白で、初海の心は少しずつ喪失感から解放されていく……というストーリー。志賀廣太郎さん、高橋恵子さんらも出演している。

 朝倉さんの力みの無い表情と演技が、見ていてなんとも心地良い。相手役の三浦さんも、朴訥(ぼくとつ)とした若者役が似合っている。2人の醸し出す素朴な空気が、すっと心に入ってくる。花火、日本手ぬぐい、浴衣、銭湯、旧式ラジオに扇風機、そういった懐かしい香りのする品々が心地良さを後押しする。

 脚本も手掛けた中川監督は詩人としても活動している。そのためだろうか、余白……詩や小説でいうところの行間を、スクリーンに残しているように感じる。同時に咲き誇る菜の花と桜の花、早朝の田んぼや田舎道、新緑がまぶしい森の中……いずれも余白がぜいたくに取られていて、それは大スクリーンで見てこそ引き立つ。

 花火大会の帰り道、音楽を聴きながら歩く初海を横からとらえた映像は、足取りから初海の高揚感が伝わってきて、見ているこちらまで笑顔がこぼれる。ストーリーも映像も決して派手ではないが、スクリーンで見るからこそ感じることができる作品だ。(りんたいこ/フリーライター)

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