アニメ:パッケージビジネスは「ぶっ壊れている」 配信が主軸に? ツインエンジン山本幸治社長に聞く

ツインエンジンが手がけるアニメ(左から)「どろろ」「pet」「バビロン」
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ツインエンジンが手がけるアニメ(左から)「どろろ」「pet」「バビロン」

 深夜アニメは毎クール40本以上の新作が放送されている。製作委員会方式で制作し、ブルーレイディスク(BD)やDVDを販売するパッケージビジネスが一般的だ。しかし、そのビジネスモデルが「ぶっ壊れている」。そう話すのが、フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」で編集長を務め、現在はアニメの企画立案などをする「ツインエンジン」の社長の山本幸治さんだ。ツインエンジンがこの3月に発表した「からくりサーカス」「どろろ」などアニメ6タイトルのうち、5タイトルは、製作委員会方式ではない。配信をビジネスの軸にしていくという。変革の時を迎えているアニメ業界について、渦中の山本さんに聞いた。

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 ◇テレビ局はアニメを本気でやらない

 一般的に、深夜アニメはテレビ放送はソフトや原作をPRする意味が大きい。BD、DVDといったパッケージや原作の売り上げなどで制作費を回収している。複数の会社が出資して、資金リスクを分散し、利益が出た場合は出資比率に準じて分配する製作委員会方式を採ることも多い。

しかし、パッケージが売れないという声も聞く。山本さんは「1万人しか買わないけど、1人が10万円払うのがパッケージ。以前は、パッケージビジネスが9割だったけど、今は1割程度。それくらい変わった」と話す。

 パッケージを中心としたビジネスが「ぶっ壊れている」中で、注目されているのが、Netflix(ネットフリッス)やAmazonビデオのようなビデオオンデマンドサービスのサブスクリプションモデルだ。サブスクリプションモデルは、月会費や年会費を支払うと多くのコンテンツが見放題になる。これまでコンテンツを世界に流通させるためには、各国のテレビ局に購入してもらう必要があった。

しかし、テレビ放送に比べると、世界同時配信が容易だ。NetflixやAmazonが制作費を投じる。各社は、世界的に人気のある日本のアニメに注力していることもあり、その予算は膨大ともいわれている。

 山本さんは、フジテレビ時代の経験から「配信をビジネスの軸にしていく。次の10年で勝負するのはここ」と考えているという。

「ノイタミナ時代からパッケージ以外のビジネスモデルを構築しようとしてきた。パッケージ以外の価値を見いださないと存続できないと考えていた。僕は2000年にフジテレビに入社して、当時からテレビ局の時代が壊れかけていたけど、今は本当に壊れてきた。テレビ局は、メディア力をうまく使って、本気でアニメをやれば強くなれる。ただ、本気でやることはないと分かってきた。視聴率、スポンサー、芸能界のことを考えないといけない。ノイタミナだけ別の考え方をすればいいとも思っていたけど、やっぱりできない。限界だった」と14年9月にフジテレビを退職した。

 ◇みんなが見ることが価値になる時代に

 配信サービスでは、見られることが価値になる。ラインアップに見られる作品があれば、契約者は契約を継続するし、新規契約者も獲得できる。サービス側は、見られる作品を求めている。テレビでは放送せずに、独占配信の作品もあるが、山本さんは「テレビの全国ネットとネット配信の組み合わせが最強」と考えているという。

「見られてなんぼの時代。独占配信ではなかなか見てもらえない。テレビは、フリーミアム(基本的なサービスを無料で提供する)を昔からやっていた。アニメファンじゃない人も見る。有料だけどカジュアルな見放題サービスとの組み合わせが最強。今は作品が人気になると、みんなが一斉に見始める。『ポプテピピック』もそうでした。みんなが見ることが価値になる。アニメはコアなものだけど、視聴率の論理に近くなってきた」

 ノイタミナ時代、山本さんは「一般の人に見ていただきながら、アニメファンに存在価値を持ってもらうことが挑戦のポイント。キー局の枠ということで、一般性も考えている」と語ったことがあった。ノイタミナは「ハチミツとクローバー」「のだめカンタービレ」「銀の匙 Silver Spoon」など話題のマンガをアニメ化してきたほか、オリジナルアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「PSYCHO-PASS サイコパス」などはアニメファンの支持を集めながら、普段アニメを見ない層にも人気を集めてきた。そのバランス感覚でアニメを作る姿勢は変わっていない。テレビ放送とネット配信を組み合わせて、マスとコアの両方にリーチする作品を目指す。

 ◇製作委員会ではないモデルを

 ツインエンジンはこの3月、「からくりサーカス」「どろろ」「バビロン」「pet」など6タイトルのアニメ化を発表したが、「ヴィンランド・サガ」を除く5タイトルは、製作委員会方式ではない。配信を中心に、パッケージ以外のビジネスを構築するのであれば、製作委員会ではない方法でもアニメを制作できるという。

 「製作委員会でリスクヘッジをするのではなく、ファンドのような仕組み。強いスタンスでやっていくためのスキームを作っている。詳細については……。すみません。そこは企業秘密です。悪いことをしているわけではないですよ(笑い)。(今回の5作品のように)塊でやることで効果が違ってくる。継続できるかは分かりませんが」と話す。近年、好調な中国系企業が出資するアニメも増えているが「中国は実は冷え始めている。今回のモデルには入っていない」という。

 配信が主軸になっていくということだが、AmazonやNetflixのような海外の企業が今後、日本のアニメに注力しなくなることも考えられる。撤退が始まれば、ビジネスモデルは崩壊する。山本さんは「以前から、『カウボーイビバップ』『攻殻機動隊』などは、海外のオタクにも受けてきた。今は海外で、日本のアニメがコアなものではなく、メジャーになっている。AmazonやNetflixより多くの資金を投じる企業が出てくるかもしれない。配信サービスは、世界的にはまだまだ増えていく」と読んでいる。

 ◇アニメーター問題は…

 ツインエンジンは、スタジオコロリド、ジェノスタジオ、レヴォルトなどのアニメ制作会社を運営しているのも特徴で、「スタジオ(アニメ制作会社)を重視する戦略を採っている。企画、スキームを設計して、スタジオの価値を高める」と語る。アニメ制作会社は、アニメーターの低賃金、人材不足などが問題になることもあるが「投資が必要になってくる。スタジオは現状維持のため、変えていくために投資しなければならない。フリーの集団のような業界で、みんなが仕事を掛け持っていたり、計画が立てにくい。うまい人が高齢化している。育成方法を変えないといけないが、育成にはお金がかかる。大変ですね」と構造改革を目指している。

 テレビ、配信向け以外にも、劇場版アニメ、CM、ショートアニメなどを制作しながら、ブランド力を高め、世界にアピールしていくという。「世界中のとある一人の人生を変えるエンターテインメントを作りたい。ノイタミナ時代は一般の視聴者のことを考えていたけど、今は世界中の視聴者のことを考えている」と話す。

 山本さんは、アニメ業界のあらゆる問題に向き合いながら、新しいビジネスモデルを構築しようとしている。「とある一人の人生を変える」とはロマンチックだが、エンターテインメントの本質でもある。革命となるのか……。

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