2018年に創刊50周年を迎えた小学館のマンガ誌「ビッグコミック」の関係者に名作が生まれた裏側や同誌について聞く連載企画「ビッグに聞く」。第4回は、同誌で「デビルマン」の新作「デビルマンサーガ」を連載中の永井豪さんが登場。永井さんに再び「デビルマン」を描くことになった理由、ギャグマンガからハードな作品まで手がけてきた執筆の裏側を聞いた。
ウナギノボリ
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永井さんは「ビッグコミック」が創刊された1968年当時を「デビューして3カ月くらいで22歳だった。作家陣が豪華で、すごい雑誌だな……という印象でした。自分は新人で、ここに描けるまで何年かかるのだろうか?とファン目線で読んでいました」と振り返る。
永井さんのマンガが初めて「ビッグコミック」に掲載されたのは70年で、山崎豊子さんの小説「白い巨塔」のパロディー「ひどい巨塔」だった。「とにかくひどい作品(笑い)。(『白い巨塔』の)映画を見て、感動して、どうしてああいうものが描けるんだろう。半裸の女医さんがメチャクチャする話だったっけ? 憧れていた雑誌なんだけど、あんまり覚えていないんですよ。ガンガン仕事をしていたので……。当時からパロディー精神が旺盛だったんでしょうね」と笑顔で語る。
71年には「ゴルゴ13」のパロディー「ゴルゴ17・18・19」が同誌に掲載された。「当時、(『ゴルゴ13』の)さいとう・たかを先生を紹介されたのですが、とにかく太かったんですよ。今の先生と違って、100キロをオーバーしていたと思います。ファッションもゴルゴのスタイルで、インパクトがあって、びっくりしたんです。作者そっくりなゴルゴだったらどうなるだろう?と考えたパロディーです。面白がって描いて、本が届いてから、ヤバい!となりました。さいとう先生からは、何もなかったので、読まなかったのか、怒って無視したのか分からないですね。感想を聞くのは恐ろしいです。当時の編集部は原稿をよく受け取ってくれましたよね」とエピソードを明かす。
パロディーは、永井さんの作品の魅力の一つだ。「面白いこと、極端な発想がとにかく好き。パロディーは、腹をくくらないとできないので、ギリギリなところでやっていました。何回怒られても、いいや!という開き直りもありました」と明かす。パロディーのネタ元のファンからカミソリの刃が送られたこともあったというが、「ありがたく、ひげそりに使いました」と笑い飛ばす。
永井さんは、2015年から「ビッグコミック」で「デビルマン」の新作「デビルマンサーガ」を連載している。連載開始までの道のりは平たんではなく、当時の編集長が1年がかりで「もう一度、『デビルマン』を描いてほしい!」とオファーした。永井さんは「『デビルマン』を描いていて、とにかくつらく、しんどかった。だから、二度と触りたくなかったんです。年齢的にも『デビルマン』を描くのはしんどい。あのころは若さもあったからできた」と踏ん切りがつかなかったという。
「デビルマン」を描いていた当時は「心の奥底から引っ張り出し、内面に入っていく感覚だった。ギャグマンガは、笑いながら描くんだけど、深く考えて描くのはつらい。描いているときは、キャラクターになり切っているので、誰かが死ぬと、自分も死ぬような感覚があったんです」と明かす。
「デビルマン」ではヒロイン・牧村美樹の死など衝撃的なシーンも多い。「美樹ちゃんが死んだときはショックでね。ものすごくつらかった。最後は、全人類を滅ぼしたような罪の意識が残った。とてつもなく孤独で、自分を罰しているようだった」と苦しみながら描いたという。
だからこそ「デビルマンサーガ」を描くのは覚悟が必要だったが、「『デビルマン』の根底にあるのは軍事化。それを悪魔で表現している。宗教的な悪魔ではないんですね。そこを明確にしていけば、違う『デビルマン』になるかな?と考えた。今の政治的な状況を踏まえながら、一つの未来の方向を訴えていけば、大人の読者も巻き込んでいけるかもしれない」と連載に踏み切った。
「デビルマン」をはじめ永井さんの作品は、怒涛(どとう)の展開で読者の度肝を抜いてきた。「読者が思っている一段上を行きたいと思っている。あんまり離れすぎると読者が付いてこなくなるので、付かず離れず、うまくやっていければ」と考えているといい、「デビルマンサーガ」も想像を超えるような展開が期待される。
「デビルマン」のようなハードな作品を描いたかと思えば、ギャグマンガも手がけてきた永井さん。「何にも考えていないんですよ。(連載が)2、3本あってもパッパッと切り替わる。こっちで5ページ描いて、こっちも5ページ……と描ける。役者みたいなもので、いろいろなキャラクターになれる。でも、スッと戻れるんですよ」と話す。“ビッグ”は思考の切り替えが早いようだ。
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