ダンダダン
第7話「優しい世界へ」
11月14日(木)放送分
劇場版アニメ「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(新房昭之総監督)が18日に公開される。同アニメは1993年に制作された岩井俊二監督のテレビドラマ作品が原作。アニメ化にあたっては、映画「モテキ」「バクマン。」などの大根仁さんが脚本を手がけ、アニメ「化物語」「魔法少女まどか☆マギカ」などのヒット作で知られる新房昭之さんが総監督を務めた。声優陣も、女優の広瀬すずさん、俳優の菅田将暉さん、人気声優の宮野真守さんが出演するなど、各ジャンルの第一線で活躍するスタッフ、キャストが顔をそろえた今作について、新房総監督に話を聞いた。
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「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」は、とある海辺の町が舞台。主人公の中学生・典道(声:菅田さん)は、クラスメートたちが花火大会を前に「打ち上げ花火は横から見たら丸いのか?」と盛り上がる中、思いを寄せるなずな(声:広瀬さん)に「かけおち」に誘われるが、その道中で時間が巻き戻る不思議な体験をする……という青春ラブストーリー。
岩井監督による原作は、オムニバステレビドラマ「if もしも」の一編として放送され、ヒロインのなずなを当時14歳の奥菜恵さんが演じた。映像の美しさ、奥菜さんの透明感あふれる演技などからファンも多い作品をアニメ化するにあたり、新房総監督は「もともとは実写の作品をアニメでという話だったので、不思議な感じがしました。ピンとこなかったというか、どうするんだろう……と思いました」とオファーを受けた際の心境を語る。
そこから作品のイメージが浮かび始めたのは、プロデューサーの川村元気さんから、「キャラクターデザインを渡辺明夫さんにお願いできないか」という申し出があってからという。渡辺さんは、「化物語」をはじめとした「<物語>シリーズ」のキャラクターデザインを担当しており、魅力的なヒロインを描くことに定評がある。新房総監督は「渡辺さんの描く女の子は、それなりの存在感がありますからね。『あ、そういうことなのかな』と思いました」と、ヒロイン像が見えてきたことで作品の方向性がつかめてきたと語る。
そのため、新房総監督が作品において最も重要視したのは「ヒロイン・なずなの存在感」だった。「そこは、原作の実写と同じで神秘的に見えたり、可愛く見えたりしなければいけない。なずなは、男性からするとちょっとよく分からないところがあるというか、近寄りがたい感じがありますよね。そういう魅力的なところが出せればいいのかなと思いました」と話す。
今作では、女優の広瀬さんがなずなの声を担当したことも話題だが、新房総監督は広瀬さんの演技を「すごく自然な感じでよかった」と絶賛。「今回はアフレコが早く終わり、声を聴きながら作画担当が作画したので、作画が芝居に引っ張られるというか、影響を受けて作られた部分が結構あるかもしれない」と明かす。広瀬さんの演技について「キャラクターがそこにいるような感じで、声の芝居が成立していた」と言い、「本当は実在はしていない“幻のキャラクター”が生まれたような感じですね」と表現する。
さらに、なずなに思いを寄せ、劇中で行動を共にする典道を演じた声優初挑戦の菅田さんについても「フレッシュな感じで、普通の声優さんがやるようなリアクションじゃなかった。アニメは、ちょっと型にはまってしまっているんだなと改めて思いました」と新鮮さを感じたという。また、典道の恋のライバルとして登場する祐介を担当したのは、人気声優の宮野さん。宮野さんがプロの声優として「2人の間に入ってうまくリードしてくれた感じもあって、すごくまとまりがよかったので、宮野さんの力も大きいかな。宮野さんとは、別の作品で組んでみたい」と3人の演技に手応えを感じたようだ。
原作の実写版では、オムニバステレビドラマ「if もしも」の世界観として、ストーリーの中に「もしもこうだったら……」という分岐点があり、そこから二つストーリーが展開する構成になっている。今回のアニメ版では典道が「ふしぎな玉」を投げることで「時間が巻き戻る」というSF的な要素が盛り込まれた。このアイデアは、原作者の岩井さんによるものだという。新房総監督は、不思議な玉が登場することで「ストーリーが分かりやすくなった。ああいうアイテムが出てきて投げたりするのがアニメらしい感じもします」と話す。
新房総監督にとって、実写作品をアニメ化するのは初めての体験。実写版については「アニメでは全然表現できない、映画的なもの」と言いつつも、「絵のキャラクターだからいいというところは出さないといけないと思いました。『二次元のキャラの方がいいよね』と思ってもらえないといけないし、『実写の方がいいよね』って言われたら負けだなって。そういう気持ちでいないといけないのかな」と思いを語った。それは、今回に限らず、アニメを作る上でいつも心に留めていることだという。
また、これまでのアニメ製作と比べて、実写をアニメ化した上での違いについては、「現実感があることかもしれないですね」という答え。新房総監督が手がけてきた作品は、カラフルな色遣いや奇抜なレイアウトの表現が多いが、「今までは絵さえカッコよければいいと思ってやってきたことが通用しないというか……。表現がおとなしくてもいいから、キャラが普通にドアを開けて出てきたりとか、自然な仕草を積み重ねていくことが“現実”っぽいのかもしれない」と語る。
今作は、SF要素がありつつも、中学生たちの夏のとある一日が描かれる。その“現実感”を出すことに難しさを感じたという。これについては、新房総監督がテレビアニメ「3月のライオン」(NHK総合)を制作する上でも感じたことだといい、「今回の映画と『3月のライオン』は、やったことがないようなチャレンジになっている」と語る。
最後に「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」への思いを聞くと、「『時をかける少女』のように、今後もまた別の人がリメークしたりして、『もしこの人がやったら……」と“if”の世界がどんどん広がっていくといいですよね」と語った。
新房総監督は、「自分は『少年ドラマシリーズ』(NHK総合で1970~80年代に放送されたテレビドラマシリーズ)が好きだったんですけれど、SF作品が多かったんですよね。『打ち上げ花火』もその系譜だなと思って。ジュブナイル作品の定番として『打ち上げ花火』が今度は実写化されて、新人女優の登竜門などになったら面白いですよね」と顔をほころばせる。
今後については「原作がある作品でやりたいものはありますけど、作りたいからといって作らせてはもらえないので……」と苦笑しつつ、「逆にいうと、ジャンルにこだわらず、どんなものでもやれるようになりたいですね。幅はせばめたくないので」と前向きに語った。今作を「チャレンジ」と語った新房総監督が、次にどんな作品に挑むのか。次回作にも注目だ。「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」は18日から全国で公開。
<プロフィル>
しんぼう・あきゆき 1994年に初監督作「メタルファイター・MIKU」を手がける。2004年以降は、アニメーション制作会社「シャフト」をおもな拠点に活動。新房さんとシャフトによる初のオリジナルアニメとなった「魔法少女まどか☆マドカ」(11年)は、のちに劇場版アニメ化され、13年公開の「劇場版 魔法少女まどか☆マドカ[新編]叛逆の物語」は、深夜アニメ発の劇場版として異例のヒットを記録。第15回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞のほかさまざまな賞を獲得。その他のおもな作品に「ぽにぽにだっしゅ!」(05年)、「さよなら絶望先生」シリーズ(07年~)、「荒川アンダー ザ ブリッジ」(10年)などがある。
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