映画「舟を編む」(2013年)などで知られる石井裕也監督の最新作「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」(5月27日から全国で公開)で初主演を飾った女優の石橋静河さん。現代の東京で、息苦しさを覚えながら生きる孤独な若者を演じている。俳優の石橋凌さんと、女優の原田美枝子さんを両親に持ち、これまでコンテンポラリーダンサーとして活動してきた石橋さんに、初めての主演作に懸けた思いや戸惑い、日々のストレス発散法や10年後の自分などについて語った。
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石橋さんは「まさかこんな経験が自分の人生で起こるとは思っていませんでした」と今作への抜てきを驚きつつ、先に撮影した出演作「PARKS パークス」(17年)が、「自分のハッピーな面がふわーっと広がったように感じた」のに対して、今作は「(自分を)壊していくような感じでした」と振り返る。
原作は、現代詩集としては異例の累計2万7000部の売り上げを記録している最果タヒさんの詩集だ。それを読みながら感じた「この言葉がどういう意味なのか」や「刺してくるような言葉が多いな……」という戸惑いは、読み終えたころには、「感覚的に安心するような、気持ちのいいものがある」という思いに変わった。
それでも、いつも不機嫌そうな顔をして、ぶっきらぼうな態度をとる美香のせりふを読みながら、「最初は、どうしてここまで強く言っちゃうんだろうという疑問が結構多かった」と明かす。しかし、演じていくうちに少しずつ美香の内面が見え始め、「うまく自分の気持ちを伝えられないから強く出てしまう、不器用で愛らしい人だな」と引かれていった。同時に「東京という街にいて感じる、息が詰まるような思いや、漠然ともやもやするものに、美香は自ら目を向けてじっと見ている人ですが、私自身も同じような感覚があるなと感じましたし、自分の不器用さも発見していきました」と明かす。
撮影現場では、石井監督からひたすら「違う」とか「頑張れ」と言われ続けた。それに対して石橋さんは「しがみつくような気持ち」と「絶対やりたいし、やらなければいけない」という思いで食らいついていった。演技に戸惑う中で、両親にアドバイスは求めなかった。なぜなら「自分の中で美香という役は、お母さんが亡くなっていたり、お父さんとうまく向き合えていなかったりする人。そこで自分が心の許せる、安心できる場所に触れてしまうと、その美香の感覚が崩れてしまうような気がした」からだ。「だから(撮影中は)、毎日家に帰るのが本当に嫌でした(笑い)」と打ち明ける。
夜はガールズバーでアルバイトをしながら看護師として働く美香。共演の池松壮亮さんと、石井監督に連れて行ってもらったガールズバーは、「楽しかったです」と笑顔を見せる。「(ガールズバーで働く)皆さんは、話を聞くのが本当にお上手なので、私も気持ちよくなってきて……(笑い)」と幸せな時間を過ごしたそうだ。だからこそ、美香の「そういう中にいる異物感のある人、そういうところにはなじめない人」という人物像を作り上げることができた。「(監督は)ちょっと行こうよ、みたいな感じで連れて行ってくださったんですけれど、そこから多分私に何かをつかめと仕向けてくれたのだと思います」と石井監督に感謝する。
4歳からクラシックバレエを始め、2009年から13年までの4年間、米ボストンとカナダのカルガリーにダンス留学した。帰国後はコンテンポラリーダンサーとして活動を始めたが、もっといろんな人、いろんな面白いことに出会いたいと思っていたとき、今の事務所から「芝居をやってみては」と声をかけられた。ちょうど、映画をよく見るようにもなり、「みんなが汗まみれ、泥まみれになって映画を作っているところを見て、ぼんやりとすてきだな、こういうところに行きたいなと、少しずつ興味がふくらんでいた」時期でもあった。「今は“大変”の方が大きいですけど、でもやっぱり、いろんな人に会うことができますし、(演じることは)面白いです」と笑顔を見せる。
今後、女優としての活躍も期待され、忙しさを増す中、美容や健康維持のためにしていることは、もちろんダンス。「いろいろたまっているなと感じたら、踊ったり、体を動かしたりして発散する」そうだ。また、食べることが好きで、特にお米が好きだという。「でも、太るんですよね、お米ばかり食べていると……」と苦笑しながらも、特別なダイエット法を取り入れるのではなく、「食べたいものを食べたいときに、おいしく食べていたらいいのかなと思います」と気負いはない。
最近気になっているファッションアイテムは、「初めてこういう質問されるので、ちょっとドキドキしています」とはにかみながら、「最近は、ちょっと“大人な”靴が欲しいと思っています。普段は割とショートブーツのようなものが多いのですが、もう少しヒールの高い、しゅっとしている感じ」の靴に引かれているようだ。
理想の女性像に挙げたのは、「どなたという具体的な方は今はいませんが、女優さんでも、身の回りにいる人でも、芯がある、自分の行きたい方向がちゃんと分かっていて、でも、周りの人に対して優しく、寛大な人はすてきだなと思います」と答えた。それはまさしく、母の原田美枝子さんでは?と水を向けると、「そうですかねえ……」とちょっと考えてから、「そうですね。やっぱり、母は一番自分にとって近い人だし、たぶん、無意識のうちに、見ている先にいる人なのかなと思います」と話した。
現在、23歳の石橋さん。10年後の自分は「まったく想像できない」としつつ、「それまでの間にもっといろんなものを見て、いろんな人に会ってみたいです。その結果どうなっているかわかりませんが、人として、前に進むというよりは、(両手で球体の形を作りながら)広がっていたいです」と語った。
最後に、今作の舞台が東京であることから、石橋さんにとっての“東京観”を尋ねると、「東京は、自分の育ってきた街でもあるし、家族がいる場所でもあり、自分の中では日本イコール東京でした。でも、留学から帰ってきたときにすごく息苦しさを感じて、それに慣れようとして、あえてその感覚をしまい込んでいた気がします。その気持ちを、完成したこの映画を見た時に思い出したんです。でも、やっぱり嫌いになれない場所で……だから、“好き”と“嫌い”の両方を感じる場所ですね」と笑顔で答えた。映画は27日から全国で公開中。
<プロフィル>
いしばし・しずか 1994年7月8日生まれ、東京都出身。4歳からクラシックバレエを始め、09年から米ボストン、カナダ・カルガリーにダンス留学。13年に帰国し、コンテンポラリーダンサーとして活動を始める。15年から活動の場を舞台や映画に広げ、16年には舞台「逆鱗」に出演。4月に封切られた映画「PARKS パークス」(16年)にも出演している。今後、映画「うつくしひと サバ?」(17年)が公開予定。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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