ダンダダン
第7話「優しい世界へ」
11月14日(木)放送分
ここ数年、国内の劇場版アニメの躍進が目覚ましい。昨年は大当たりの年で、興行収入が230億円を突破した「君の名は。」をはじめ、「聲の形」は22億円、女優ののんさんが声優を担当した「この世界の片隅に」も10億円を突破した。「応援上映」で話題となった「KING OF PRISM(キンプリ)」の8億円超の興行収入も、本編のテレビ放送終了から2年後、しかも女児向けアニメのスピンオフ作品であることを考えると驚異的といえる。
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こうした「大当たり」の背景にあるのが、繰り返し映画館を訪れる「リピーターの増加」だろう。これは実写映画の「シン・ゴジラ」や「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の大ヒットを支えていた現象でもあり、劇場版アニメに限ったことではない。
だがアニメの上映期間の長さは突出している。一昨年に公開された「ガールズ&パンツァー 劇場版」(24億円)や劇場版「ラブライブ!」(28億円)などはその代表例だ。SNSで「○回目を見に行きます」という発言は珍しくなく、主催者側も観客が複数回見ることを前提にした施策を打ち出すのも当たり前。つまり「リピーターが劇場版アニメのヒットを後押ししている」という推測が成り立つ。
ポイントは、なぜリピーターになるかだ。「何回も見る」だけなら、ブルーレイディスク(BD)やDVDの発売やレンタル、ネット配信を待てばいい。わざわざ高額になる入場料を払ってまで、ファンはどうして、劇場版アニメを何回も見に行くのだろうか。
映画館での観賞と、ディスク販売・動画配信の関係は、音楽のライブとCD・ストリーミング配信の違いに似ている。つまり「価値観を同じくする人たちが集まり、同じ場所で同じ感情を共有する」ということだ。これまでデジタル技術は映像や音楽など「コンテンツ」を、特定の時間や場所に拘束する「体験」から切り離して「いつでもどこでも」の方向に推し進めてきた。
しかし「いつでもどこでも」が普及するにつれ、逆に「共有体験」が希少性を帯び始めてきた。すでに音楽ライブ市場は2013年にCD市場を追い抜いているが、同様の現象が劇場版アニメについても起きているとみるべきだろう。
劇場版アニメをよりライブ体験に近づけているのが、上映形態の多様化だ。日本の二次元感覚を意識したアニメ(CG作品も含む)はIIMAX 3Dなど3D上映には適さなかったが、近年の4DX/MX4Dといった、「映画のシーンに合わせて体感できる」といったシステムとは親和性が高い。例えば、主人公たちの乗る戦車が衝撃を受ければ、シートが動き風が吹き出すなどの「体感」は、家庭では再現できない体験だ。映画館は、遊園地のアトラクションやテーマパークのようになり、何度も足を運ばせる場所となった。東京・立川のシネマシティなどの名物となった「極上爆音上映」(体が震えるほどの大音響に浸れる)も“体感”のカテゴリーに入れていいだろう。
そして、テレビの情報番組で取り上げられてすっかり有名になった「応援上映」もそうだ。応援や歓声、合いの手などの声を出したり、コスプレをする、サイリウムを振るといったその手法は、音楽のライブそのものだ。すでに2011年ごろから「映画けいおん!」など一部の作品で散発的にはあったが、そんな「点」が途切れない「線」へとつながったのは、観客全員が声援を送り、興奮をともにするライブと相性のいいアイドルアニメの映画化が続いたからだろう。「劇場版プリパラ」シリーズで大盛況だった「アイドルおうえん上映会」は「キンプリ」に受け継がれた。今では、一部に「最初から声を出せるよう映像にテロップを入れておく」といった仕掛けが織り込まれているほどになった。
これら新たな上映形態の強みは「元の上映素材は加工の必要がなく、後付けできる」ということだ。爆音上映なら音響の再調整、4DX/MX4Dであればシートの動きなどの演出を専門家が設計して「かぶせる」。応援上映会であれば一部の時間に限って告知すればいい。観客は同じタイトルを見に行きながら毎回異なる体験ができるし、すでに上映が終わった作品も新たな形態で「セカンド上映」が可能だ。こうした手法でさらに動員数が伸びたのが「君の名は。」や「キンプリ」「遊戯王」「ガールズ&パンツァー」などだ。まさに映画館のアトラクション化が進み、新たな客層を生み出したと言える。
しかも特殊上映は一部の劇場に限られるため、ネットでの拡散が観客動員に大きな意味を持つ。そして「応援」を広くとらえれば、「この世界の片隅に」のように企画段階からファンが深く関わり、製作資金を提供する「クラウドファンディング」で製作された作品も「観客参加型」だろう。リピーターに後押しされた成功は、今まで以上にSNSを含めた「映画がどう見られているか」という目線を劇場版アニメに反映することになりそうだ。(多根清史/アニメ評論家)
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