Hilcrhyme:2人が結成10周年で「もう一度デビューの頃の気持ちを思い出したい」

10カ月ぶりのシングル「パラレル・ワールド」をリリースしたHilcrhymeのDJ KATSUさん(左)とTOCさん
1 / 6
10カ月ぶりのシングル「パラレル・ワールド」をリリースしたHilcrhymeのDJ KATSUさん(左)とTOCさん

 6月9日に結成10周年を迎えたHilcrhymeが、約10カ月ぶりのシングル「パラレル・ワールド」を6月29日にリリースした。グラミー賞を受賞したプロデューサーのジャスティン・トラグマンさんとタッグを組み、日米のケミストリーによってHilcrhymeの新境地と呼べる楽曲が完成した。

あなたにオススメ

 ◇LAの超一流の作業を目の当たりにして…

 ――今回のシングルにはジャスティン・トラグマンさんが参加しています。どういった経緯ですか?

 DJ KATSUさん:結成10周年を迎えるにあたって、新しいことをたくさんやろう、と。その一環として、米国のロサンゼルス(LA)でソングライトキャンプに参加することになって。そこで一緒に制作を行うことになったのが、ジャスティンでした。

 隣のスタジオではラッパーのピットブルやシンガーのシェール・ロイドが制作をしていたり、超一流が勢ぞろいしているようなところで。向こうの超一流が実際にどんな作業をしてるかを目の当たりにすることができたことは、勉強になったし、刺激も受けました。

 ――LAで驚いたことや意外だったことは?

 DJ KATSUさん:日本だとスタジオに入ると機材がブワーッと積み上がってるんですけど、向こうはモニターとインターフェースがぽんと置いてあるくらい。とてもシンプルで驚きました。でも、すべてをデジタルでやっているという点では日本も同じなので、要はどう操作するかなんだな、と。もちろん、こういう使い方もあるんだ!と驚いた部分もありましたけれど、現地で作業ができたことは、本当にいい経験になりました。

 TOCさん:僕は行けなかったのですが、トラックのラフは日本で作ったので聴いていて。それがUSの音になって帰って来た感じでしたね。いつも曲のよし悪しは、テンションがアガるかアガらないかで決めるんですけど、今回はものすごくアガりました。

 ――トラックの面で、今までと一番変わったのは、どういう部分ですか?

 DJ KATSUさん:ビートですね。たとえばキック(バスドラム)の音なんですが、それ単体では劇的な変化は感じられないのですが、他の音と一緒になったとき、すごく存在感を発揮するんです。俺が特に感じたのは、そういう低音域の仕上がり。単に低音をクローズアップするだけなら誰でもできるけど、それだけではない気持ちよさがあって。そうできる技術を学びたいと思って、ずっと作業を見ていたんですけど、細かいニュアンスの出し方など本当に勉強になりました。

 ◇ネガティブをポジティブに変換するエネルギーが活力の一つ

 ――「パラレル・ワールド」は、クールなトラックとヘビーな歌詞の世界観が、絶妙にマッチしましたね。

 TOCさん:実は、仮タイトルは「私なんか」だったんです。でも、このままだとネガティブすぎるなと思って。そこに10周年記念のライブ「PARALLEL WORLD」が3D映画化されることに決まり、その主題歌になるということで「パラレル・ワールド」にしようと。

 ――「パラレル・ワールド」というタイトルからは、ネガティブな世界線とポジティブな世界線を行き来するような意味も感じました。

 TOCさん:それもありますし、「あのときこうしていれば」とか「もしもあのとき」といった、「たられば」のことも意味していて。「たられば」を考えるのは悪くはないことだけれど、そればかり考えて、どんどんネガティブな方に進んで今自分がいる場所が正しいのかどうかさえ、分からなくなってしまう時があると思うんです。でも、自分が考えて選択した今いる道は、絶対に最良のものだと信じなきゃダメだと思うので。

 ――歌詞の内容は、深層心理をえぐるようなヘビーな内容。でもそこから、どんどんはい上がっていく感覚もありました。

 TOCさん:はい。ネガティブをポジティブに変換するエネルギーこそが、人間の活力の一つだと思っているので。

 ――こういう曲を書こうと思ったきっかけは?

 TOCさん:SNSを見てて、自撮りするときに目を隠したりうつむいたりして撮っている若い女の子が多いことに気づきました。ファンの子に、どうしてそういう撮り方をするのか、と聞くと「可愛く見えるから」という回答がすごく多くて。それで「そんな撮り方をしなくても、すごく可愛いんだよ」と言うと、「いやいや、まったく可愛くない」って。こっちが可愛いって言ってるんだから、「ありがとう」でいいじゃないですか? それなのに可愛くないと返して来る。そういう返答をすることの、どこにもプラスのファクターがないじゃないかと思ったんです。謙虚さとか謙遜というものが、マイナスに働いている子が多いんじゃないかと。だから、もっと自分を好きになっていいんじゃない?という曲を作ったわけです。

 ――自己肯定してほしいと。

 TOCさん:そうです。自分を誇るということはHilcrhymeの曲の大前提としてこれまでも歌って来ているテーマ。「私なんかじゃなく、私だって!」という歌詞の一節に、すべてを込めています。これは若い女の子に限らずで。新人のアーティストやアマチュアのアーティストから、自分が作ったデモテープを渡されることがあるんですけど、申し訳なさそうに渡されるときがあって。それだけで聴く気もうせますよね。

 DJ KATSUさん:自信満々くらいのほうが、「じゃあ聴いてやろうか」って気になるじゃないですか。

 ――確かに。

 TOCさん:「Hilcrhymeを軽く超えてるんで!」とか言ってくるくらい、ぶっ飛んでるヤツこそアーティストになるべきだと思うし。「たいしたことないんですけど」って渡されるより「自信作です!」って渡されるほうが気持ちいいですし。

 ――聴く人にポジティブになってほしいという限りは、自らそれを実践していなければ机上の空論になってしまいます。24時間ポジティブでいることは、すごく大変ではないですか?

 TOCさん:めっちゃ疲れますよ、基本的にはネガティブ思考なので。でもネガティブだからこそ、ポジティブを意識できると思うので、それはそれでめっちゃいい感じです。自分が好きなアーティストが、自信なさげに歌ってる姿を見るのは絶対に嫌だし、空元気でもいいから、自信があるように見せてほしいって思いますよね。だから、自分もそうありたいと思っています。

  ◇「ソウサ」はトリプルミーニング

 ――カップリング曲の「ソウサ」ですが、タイトルは操る意味の「操作」だったりしますか?

TOCさん:それもありつつ、「捜査」もあるし、「そうだよ」の意味の「そうさ」もあるし。トリプルミーニングくらい掛かってます。

 ――こちらの曲も、歌詞が相当面白いですね。ニュースやワイドショーなどで疑問に思うものとか、とても身近な問題でもあり、遠すぎて人ごとのように感じてしまうこととかを、皮肉たっぷりに歌っている。

 TOCさん:日本って、こういう曲がメジャーのフィールドで鳴ることはあまりないことですよね。最初はもっとストレートに書いていたんですけど、聴いてもらえなくなってしまうのは嫌なので、日本のルールに従って書き直してこういう歌詞になりました。でも俺としては、歌ってる内容は結果ポジティブだし、ポピュラリティーに富んでいると思うんですけどね。

 ――メッセージ性も含めて、60年代、70年代のフォークみたいな感覚もなるのかなと思いましたが。

 TOCさん:そういう音楽は大好きなので、サビのメロディーラインや歌い回しなんかは、昔そういうフォークの曲を聴いた記憶から出てきていると思います。実際にメロディーを考えるときは、アコギ1本でも歌えるものを意識していて。全曲アコギ1本で歌えますよ。それと同時にヒップホップ畑で育って、ヒップホップは俺の人生でもあるので。こういうメロディーとヒップホップのスタイルを合わせるのは、俺の中では至極当然のことなんですよ。

 ――「パラレル・ワールド」は、9月に公開の3Dライブ映画「Hilcrhyme 10th Anniversary FILM『PARALLEL WORLD』3D」の主題歌ということですが。

 DJ KATSUさん:4月15日にディファ有明で開催されたライブを、また違った世界観で見せるという意味で「PARALLEL WORLD」と名付けていて。俺らが登場するシーンは隕石(いんせき)が飛んできたりとか、さまざまなCG処理を加えていて、現実にはありえないようなものになっています。音も映像も3Dなので、ライブの当日に来てくれた人でも、まったく違ったライブとして楽しんでもらえると思います。

 TOCさん:映像と音楽が限りなく近い距離にある時代。そういう時代に映像の世界で、こういう最先端のことをやらせてもらえるのは、とてもラッキーなことだと思っています。ぜひ見にいらしてください!

 ◇10周年で「Mステ」に2回連続出演

 ――最後に結成10周年ということで、10年で印象に残っていることは?

 DJ KATSUさん:テレビ朝日「ミュージックステーション」に2週連続で出演して、しかも同じ曲を歌ったことは俺らの中でけっこう衝撃でした。あとは、10年続けて来られたことかな。

 TOCさん:結構難しい質問ですよね、どれもこれも鮮明に残っているので。今、KATSUが言った「Mステ」もそうだし、デビューのときもそうだし、初めての武道館ライブ、忙しくなったときのこと、初めて給料をもらった日のこと、インディーズで初めてCDを出したとき……。このHilcrhymeとしての一連の活動が、これまでの人生で一番刺激的なものになっています。ただ11年目からは、また初心に帰った気持ちでやりたいと思っていて。今の俺らには、始めたときのようなドキドキ感が、圧倒的に足りない。一番怖いのは、音楽ビジネスに飽きが来ることだから。そうならないために、もう一度デビューの頃の気持ちを思い出したいと思っています。

 DJ KATSUさん:今回LAに行って、いろいろな刺激を受けました。レコーディングの手法もそうだし、向こうのビートのトレンドを知って。どういうジャンルやビートがはやっているかとか。今、トロピカルハウスとかラテン寄りのBPMのゆっくりめの曲がはやっていて。そういう曲をチェックしていたら、自分でもハマってしまったほどで。すごく刺激を受けまくったので、今後に期待していてください!

 TOCさん:10月から、1年半ぶりのツアーを行います。またリリースもあると思うし。映画を見て、その上でまたライブにも来てください!

 <プロフィル>

 DJ KATSUさんとTOCさんの2人組。2006年に始動、2009年にシングル「純也と真菜実」でメジャーデビュー。以降、名だたる音楽賞を総なめにし、2010年の「大丈夫」は配信で110万ダウンロードを記録。シングル19枚、アルバム6枚などをリリースしている。10月13日の新潟・新潟県民会館を皮切りに、12月11日、東京・TOKYO DOME CITY HALLまで全国ツアー「Hilcrhyme TOUR 2016」を開催する。

 (取材・文・撮影/榑林史章)

写真を見る全 6 枚

芸能 最新記事